変態古典授業（本文）

　「一生不犯」と言えば、生涯セックスをしないことである。一度やった人が「もう二度としない」と誓うのではなく、最初からしないのである。なかなかできない立派なことである。川中島の合戦で有名な上杉謙信はこれを貫いたらしいが、その代わりにお稚児さんをかわいがっていたという説もある。だったら「不犯」とは言えないだろう。なお、ＳＦ作家の小松左京氏は、実は謙信は女性であったという説に基づき、川中島で信玄と謙信がセックスをして意気投合し、甲信越連合軍で都に攻め上るという小説を書いている。

　宇治拾遺物語にはＨな説話がかなり多いのだが、教科書には絶対に載せられないし、そんなものを入学試験に出せばその大学の見識が疑われてしまうので、入試にも出ない。そういうわけでこのような説話は多くの人の目に触れないままである。知ってるのは私のようなマニアックな古典読みだけということになってしまう。

これも今は昔、京極の源大納言雅俊といふ人おはしけり。仏事をせられけるに、仏前にて、僧に鐘を打たせて、一生不犯なるをえらびて、講を行なはれけるに、ある僧の礼盤にのぼりて、すこし顔けしき、たがひたるように成て、鐘木をとりてふりまはして、打もやらで、しばしばかりありければ、大納言、いかにと思はれけるほどに、やや久しく物もいはでありければ、人ども覚つかなく思けるほどに、此僧、わななきたる声にて、「かはつるみはいかが候べき」といひたるに、諸人、をとがひを放ちて笑ひたるに、一人の侍ありて、「かはつるみはいくつばかりにてさぶらひしぞ」と問たるに、此僧、くびをひねりて、「きと夜部（ゆうべ）もしてさぶらひき」といふに、大かた、どよみあへり。其の紛に、はよう逃にけりとぞ。　　　　　　　　　　　　　（宇治拾遺物語・巻一の十一）

　これも今となっては昔のことだが、京極の源大納言雅俊という方がいらっしゃった。仏事をなさった時に仏前で僧に鐘を打たせて、生まれてこのかたＨをしたことのない童貞の僧を選んで法会を行なわれた。ある僧が座に上がった時に、ちょっと表情が落ちつかない雰囲気で、鐘木を持ったものの打ち鳴らさずにボ－ッとしていたので、大納言は「この僧はどうしたのだろう」とお思いになっていたが、それでも長いことこの僧は物も言わないでいたので、周囲の人々はみんな気がかりに思っていたが、この僧はわなわなとふるえるような声で「オナニ－はどう判断すればよろしいのでございましょうか？」と言ったので、人々はあごがはずれるくらいに大笑いした。一人の侍が、「オナニ－は何歳でいたしたのですか？」と質問したところ、この僧は首をひねって、「ちょっと昨夜もいたしました。」と言ったので、一同は大爆笑した。そのオナニ－僧は混乱にまぎれてはやばやと逃げ出したそうである。

　さて、この説話にはオチがない。若い僧にとって「かわつるみ（オナニー）」は許される行為であったのかなかったのか？　その答えがない。しかし修行中の身で「昨夜もしました」ということはその場にいる資格を失うほど恥ずかしいことであったということはかろうじてわかる。おそらく、かわつるみくらいならこっそりしている僧はいただろうし、見つからない程度に黙認されていたのだろう。しかし、その事実を告白することはやはりタブーであったということだろうか。

　さて、「信仰」というものが、何かの修行を自分に課す行為であるとするならば、「セックスをしない」という苦しいル－ルを課すことはそれなりに意味があるのかも知れない。受験勉強でも同様である。男子校や女子校が東大への合格者上位を占めるのは、恋愛という快楽を禁じることによって学習効果が上がるからである。一度その快楽に溺れればもはや勉強どころではない。

　しかし、「セックスの快楽」を禁じたところで、「かわつるみ（オナニ－）」を、それも一日に数度やりまくっていたのでは、修行中どころではなく煩悩のかたまりとしか言えないだろう。また相当な疲労もあるはずである。実際の所、多くの宗教は性に関する厳格なル－ルを設けて戒めてきたわけだが、新興宗教と呼ばれるものの中には、教祖が多くの女性信者を周囲にはべらせてハーレム状態のものさえあるらしい。教祖のカリスマ性をそんなところにまで発揮しなくてもいいのにと思ってしまう。

　古典文学の世界で色好みといえばやはり源氏物語の主人公、光源氏である。しかしこいつは物語の中の人物である。実在の人物としては在原業平がやはりナンバーワンの色好みでみんなのあこがれである。しかし、色好みの中には平仲（へいちゅう）と呼ばれた平貞文のようにただの変態としか思えないヤツもいる。

今は昔、兵衛佐平貞文をば、平仲といふ。色好みにて、宮づかへ人はさらなり、人のむすめなど、忍びて見ぬはなかりけり。思ひかけて、文やるほどの人の、なびかぬはなかりけるに、本院侍従といふは、村上の御母后の女房なり。世の色好みにて有りけるに、文やるに、にくからず返事（かへりごと）はしながら、あふ事はなかりけり。

「忍びて見ぬはなかりけり」ということだから、いい女と見ればとにかく手当たり次第やりまくり状態だったのである。そして、本院侍従という女性に今度は手を出そうとした。しかし本院侍従も、ただの性欲の権化の平仲とはＨしたくなかったのか、誘いを断り続けたのである。侍女を買収してやっと平仲が本院侍従の部屋に忍び込んだ時は、席をはずしてそのまま戻らないという形で、まんまと平仲にレイプされる危機を逃れたのである。

　悔しいのは平仲である。なんとかモノにしたい。なんとかやりたい！そう思って気も狂いそうになった平仲は、全く逆のことを考えた。もしも自分が、あの本院侍従のウンコを見たとしたら、きっと幻滅して嫌いになる。そうすればこの片想いの苦しみから解放されるのでないかという、むちゃくちゃな発想であった。

随身を呼びて、「その人のひすましの、皮篭もていかん、奪ひとりて我に見せよ」といひければ、日ごろ添ひてうかがひて、からうじて逃げたるを追ひて、奪ひとりて、主にとらせつ。平仲よろこびて、かくれに持てゆきて見れば、香なるうすものの、三重がさねなるにつつみたり。かうばしきことたぐひなし。ひきときてあくるに、かうばしさたとへんかたなし。見れば、沈、丁字を、こく煎じていれたり。又たき物をば、おほくまろがしつつ、あまたいれたり。さるままに、かうばしさを推量（おしはか）るべし。見るにいとあさまし。「ゆゆしげにし置きたらば、それに見あきて、心もやなぐさむとこそ思ひつれ。こはいかなることぞ。かく心ある人やはある。ただ人ともおぼえぬありさまども」といとど死ぬばかり思へど、かひなし。「わが見んとしもやは思ふべきに」と、かかる心ばせを見てのちは、いよいよほけほけしく思ひけれど、遂にあはでやみにけり。

　平仲の随身はチャンスを狙って本院侍従のひすまし（ウンコ係）を窺い、とうとう強引にウンコの入った皮篭を奪い取ったのである。そうして危険を冒して手に入れたウンコは、なんと「香なるうすものの、三重がさねなるにつつみたり。」とあるように、大切に包まれていたのである。そこからは馥郁たる香りが立ちのぼっていた。「かうばしきことたぐひなし。」である。さて、この香りは、ウンコ特有の臭さなのだろうか？それとも違うのだろうか。平仲はそれを確かめるために、その包んだ布をひらいて、中のウンコを確かめてみたのである。つついているうちに、ついに少し舐めてみたり、汁をすすってみたりしてしまったのである。

ウンコのよい香りの正体は、沈・丁字といった香料だったのだ。それをたきこめていい香りを出していたのである。ウンコというのは臭いものだ。それにこんな心遣いをするような女性が存在するだろうか？もしもただ臭いだけのウンコだったとしたら、嫌いになることができたのである。しかし、ここまで見事なウンコを見せられたら、ますますその奥ゆかしさに惹かれてしまうのが、恋した男の弱みである（笑）。

　この世にＨではない人間などいるのだろうか。よく「オレは硬派だ」とか「オレはエロ本には興味はない」と称しているヤツが居るが、そういうヤツに限って体のある部分の硬度が異常であったり、ＨＤＤのほとんどをエロ画像が埋め尽くしていることが多い。そういうわけなのでオレは自分がＨであることを隠したくないし、そういうものに興味を持つことが人間すべてへの興味や生きていく活力につながっていることを理解している。

　人間は学問なんかよりもエロの方がはるかに好きであるという当然と言えば当然の真理をこのようにちゃんと文字にして残してくれている人はきわめて少ない。それを正直に書いたという点で孔子は尊敬に値する。学者というのは聖人ぶってるヤツが多いからである。大学教授が起こすセクハラ事件などを思えばもう化けの皮は剥がれているわけだが。

　私は教師という職業をしているせいで、人から「勉強が好きなのですか？」と愚かな質問を受けることが多いが、そんなわけがない。古典文学を読んでる時間よりも週刊誌を読む方が多いし、生徒に講義をしている時間よりも、美女と向かい合ってお茶を飲む時間の方が百倍好きである。哲学者のカント（Ｋａｎｔ）には正直言ってあまり興味はないが

受験勉強という非人間的な苦痛を貫徹するためには、性の快楽を知ることはあまりにもリスクが多すぎる。もしも自分が幸運にも高校時代に童貞を失っていれば、絶対に現役で大学に入れることはなかっただろう。数年の浪人生活・・・いや、大学にすら入学できていなかった気がする。

　人間は快楽に弱い。修行を積み、精進するためには快楽こそが敵だ。「修道院」などのシステムが性の快楽を与えないことで人を高みに登らせようとするのは、ある意味でもっとも理に適ったことと言える。しかし、得てしてそういう場所では「同性愛」が蔓延するものである。それはふつうのセックスよりももっと泥沼の快楽であるという説もある。私はしたことがないのでわからない。

　しかし、このような書き込みをする私が、「高校生のセックス禁止」などという暴論を主張しているとは誤解しないでほしい。完璧な人間など稀有の存在なのだ。普通の高校生は、中途半端にセックスをして、中途半端に勉強をする。それが普通なのだろう。決して私はそれを否定するものではない。

　昔、ある男が（ある女と）片田舎に住んでいた。男は宮仕えをすると言って京に行ったまま３年間帰ってこなかったので、女が待ちくたびれていたところ、そのスキを狙って女に言い寄ってきた男がいて、女もまんざらではなく「今夜Ｈしましょう」と約束した、ちょうどその夜に男が帰ってきたのである。

男は「この戸をあけてください」と戸を叩いた。あわてたのは女である。なにしろ他の男とのＨの真っ最中である。女はやむなく、戸を開けずに歌だけを詠んで差し出したのである。「三年もの長い間、あなたを待ち続けていたんですよ。それでもあなたが帰ってきてくれなかったから、今夜はじめて他の男とＨするんですよ」と家の中から言い出した。すると男は、「長い年月私があなたを愛してきたように、今度はあなたがその男性と仲むつまじく暮らしなさいよ」と言って立ち去ろうとした。

さて、京に出かけたこの男、果たして三年間の間に新しい女を作ることはなかっただろうか？答えはノーである。きっと都で新しい女ができたから、三年間帰らなかったのである。それはこのあっさりした態度にも表れている。「新しい男と仲良くやれよ」と告げてさっさと帰ろうとする。自分を裏切った女を全く責めないのである。もうその女は自分には不要だからだ。京に帰って新しい女との幸福な日々が待っているのである。昔の女の様子を見に来たのは男の思いやりの心からだった。しかし、女にはもう新しい男がいる。ならば自分は何も気に病む必要はないのである。また、この女の「今夜初Ｈよ」というのも怪しいものである。男が帰ってくるなんて予想外だったからあわててごまかしてるという気もするのである。本当は女も新しい男と毎晩楽しんでいたかも知れないのである。

　さて、この段は恋愛に関するさまざまな教訓を与えてくれる。やはり恋愛というのは「去りゆく者が美しい」のである。中島みゆきも「わかれうた」の中でそう唄っている。もうひとつ、遠距離恋愛が必ず破 局に至るということも。人間とは弱いモノである。遠くにいる理想の相手よりも近くにいる手近な相手についつい惹かれてしまうのである。平安時代からこの真理は変わることなく現代に受け継がれてきたのである。愛する相手とはどんなことがあっても離れてはならないのである。

　源頼朝が弟の義経とどうして仲違いしたのか。多くの御家人たちの前で義経によって恥をかかされた梶原景時が、逆恨みして頼朝に讒言したせいだと言われてるが本当にそれだけだろうか。もっと別の理由があったからだと思うのだ。頼朝と義経の最大の違いは、それは女にモテたかどうかである。義経の本質とは色好みである。静御前という白拍子以外にも多くの愛人が居たらしい。ところが頼朝には政子という嫉妬深い妻が居る。奔放に楽しむ義経のことが目障りで仕方がなかったのである。

義経の戦場での活躍はここで書くまでもないが、平家一門を壊滅させた壇ノ浦の合戦では多くの女官たちが入水自殺を遂げたのである。安徳天皇を抱いた二位の尼（平時子）も飛び込んだのである。安徳天皇の母である建礼門院（平徳子）も飛び込んだのである。さて、波間に漂う女性たちは、源氏の武者や水軍の部将たちにとってはただの「戦利品」でしかない。争って拾い上げてお持ち帰りしたことは容易に想像できる。その戦利品の中になんと建礼門院も混じっていたのである。さすがにこの女性は総大将である義経に献上されることとなった。

義経と建礼門院の対面の場面は、江戸時代に書かれた「壇ノ浦夜合戦記」という書に登場する。作者は頼山陽と言われている。漢文で書かれた原文を書き下し文にしたものと、その口語訳を以下に示したい。■部分は原文でも欠字である。また原文中の太后＝建礼門院（女院）廷尉＝義経である。なお、表示の都合で一部の字を意味の近い別の字に置き換えたことをご容赦願いたい。

太后すでに廷尉の膝に凭る。廷尉顔を合はせ、唇を接す。太后微しく舌尖を出せども、胸悸戦慄為すところを知らず。廷尉曰く「何の故ぞ」太后言はず。廷尉曰く「殊更に処女の態を学んで義経を弄するか。」と。太后微かに言ひて曰く「自ら禁ずる能はざるのみ」廷尉曰く「義経に治術あり」乃ち右手を腋より、左手を肩より入れしめ、而して廷尉亦左手を襟に、右手を帯に挟み、力を合はせて相擁する多時、太后震慄なほ未だ治せず。廷尉曰く「別手あり」乃ち右手を転じて緋袴を解き、親衣を排して腰衣を穿ち、指頭わづかに■間に乃ぶ。春草疎にして軟かなり。太后脚を絞り玉門を鎖し、敢へて奥を許さず。廷尉曰く。「何故ぞ」太后密声して曰く「唯恥多きのみ」廷尉曰く。「すでに茲に至れり。何為れぞ更に恥ぢて、何れの時をか期せんとする。なほ然らずんば、斯くの如くせんのみ」と乃ち軟草を抜く。太后曰く。「嗚呼、痛しや。悪むべきのみ」股を少し解く。廷尉力索し、初めて桃源郷を得たり。

　女院はさっきから義経の膝にもたれっぱなしだ。義経は顔をくっつけてくちづけしようとした。女院は舌先をチロチロと出すが、身体は震えている。義経は聞いた。「どうしたのですか？」女院は答えない。「わざと処女のふりをしてからかうおつもりですか？」女院はかすかな声で言った。「いいえ、ちがいます。どうしてこうなのか自分がわからないの。」義経が言った。「では義経が治してあげよう。」女院の右手を脇の下から、左手を肩から入れさせ、自分も左手を襟に右手を帯に挟んで力を入れてしっかりと抱き合ったが、女院の震えはとまらない。「別の手で行こう」義経はそう言いながら右手を転進させて緋の袴のひもを解き、襦袢をどけて腰衣の中に進み、指先がわずかに太腿の間に届いた。陰毛は薄くて軟らかだった。女院は両脚をかたく閉ざしてそれ以上触れさせない。義経は言った。「なぜ、触らせないんだ」女院は小さな声で言った。「恥ずかしいのよ」義経は言った。「この期に及んでいまさら恥ずかしいとは、いまやらなくていつするんだ。まだいやがるのならこうしてやる！」と柔らかな陰毛を引き抜いた。女院は言った。「ああ、痛いわ。憎らしい方ね」女院は少し股を開いた。義経の指はやっと微妙な部分を探り当てた。

　このような作品は、いったいどんな読まれ方したのだろうか？やはりこれも「ズリネタ」だったのだろうか？もしも「ズリネタ」であるとすれば、なんと高尚な文化だろうか。それを理解するには漢文の豊かな素養を必要とする。少なくともそれは高度な知的娯楽だったわけである。

また、Ｈの最中に女性の陰毛を引き抜くことにどんな意味があるのか、私にはどうもわからない。私はもちろんそんな痛いことはしたことがない。ＳＭプレイの一種だったのだろうか。この文を読む限りでは、女院の方ではさほど義経への好意はなく、捕虜になった負い目から義経のセクハラに耐えていたのだが、義経は強引に抱こうとした感じが受け取れる。

　安徳天皇の母である建礼門院にまでふらちな行為を仕掛けた破廉恥野郎に対して、いくら弟とはいえ許せないという感情を頼朝が持ったとしてもおかしくないような気がするのである。ヒステリックに怒り狂った頼朝は、義経の愛人静御前を捕らえて自分の前に引き出させた。義経の母であった常磐御前が清盛に抱かれることで三人の子の命乞いをした故事にならおうとせこいことを考えたのかも知れないが、静御前の激しい拒絶にあってしまう。権力で女を思い通りにしようとする男がクソ野郎なのは今も昔も変わらない。

anal（アナル）というのは形容詞で「肛門の」という意味、ちなみに名詞「肛門」はanus（アヌス）である。他の語につながるときはanal～という形で後ろに別の語を従えることとなる。形状からの類推で日本語の「穴」という語から発生したことば、つまり「穴る」だと大きく誤解してる人もいるので最初に断っておきたい。

　結論から言えば、アナルはＮＧだが恥垢（ちこう）はＯＫである。残念ながら性の話ではなくて古典の話である。もしも性の話ならば逆にアナルはＯＫだが恥垢はどうしても苦手だという人の方が多いだろう。ちなみに私はどちらも苦手である。きわめてノーマルな人間なので変態を期待した方には申し訳ない。

中將、人々具して帰りまゐりて、かぐや姫を、え戦ひ止めずなりぬる事、こまごまと奏す。薬の壺に御文そへ、まゐらす。ひろげて御覧じて、いといたくあはれがらせ給て、物もきこしめさず。御遊びなどもなかりけり。大臣上達を召して、「いづれの山か天に近き」と問はせ給ふに、ある人奏す、「駿河の国にあなる山なん、この都も近く、天も近く侍る」と奏す。これを聞かせ給ひて、

　中将は人々を引き連れて帰参し、かぐや姫を戦って引き留めることができなかったことを詳しく帝に奏上する。（かぐや姫から受け取った不老不死の）薬の壺に手紙を添えて帝に差し出す。帝はその手紙をひろげてごらんになって、しみじみと深く悲しみなさってなにも召し上がらず、管弦などの遊びもなさらなかった。大臣や貴族たちを呼んで「どの山が天に近いのか？」とお尋ねなさるので、ある人が奏上する。「駿河の国にあるとかいう山が、この都からも近く天にも近いです。」と奏上する。これをお聞きになって帝は詠んだ

この文中の、「駿河の国にあなる山なん」の部分を、「駿河の国にあんなる、山なん」と正しく言葉の切れ目を間違うことなく発音できれば問題ないのだが、なぜか「あなる山」と一単語のように読んでしまう生徒が多いのである。「あなる山」とはいったいどんな山だろうかと思ってしまう。ケツの穴の形をした山なのだろうか？　文法的に説明すれば

バカ殿が新しい侍女をいやらしい目で眺めながら声をかける。「これこれ、もそっとちかう寄れ」この「ちか う」というのは形容詞「近し」の連用形「近く」がウ音便になった形である。発音は「ちこう」であって、この発音だけを耳にすれば誰もがあの「恥垢」（関西ではチンカスと呼ぶ）のことを思い浮かべるだろう。しかしこれはたまたま発音が一致しただけであるから全く問題ないのであって、大きな声で「ちこう」と読めばいいのである。いくらその語が「恥垢」（ペニスの先の皮と亀頭との間に貯まる白い垢のこと）と同じ発音であり、発音するたびにその恥垢を心の中で想像してしまうとしても、それはそんなものを想像するヤツの方が変態なのであって、何も考えずにただ「ちこう」と読めばいいのである。

　両刀遣いというと通常何が想像されるだろうか？　元阪神タイガースのムーア選手のように投手でありながらバッティングに非凡なセンスを発揮するとか、文武両道に秀でているとかが普通だろう。しかし、性の世界に於ける両刀遣いというのは他でもない。異性愛と同性愛の両方がやれるという便利な性癖の持ち主のことをいうのである。そのあたり、私は同性愛のことは全くわからないので、ホモの方に「あなたは女も愛せますか」と聞くしかないのだが、古典文学の世界の両刀遣いといえば通常は女性を愛するが、男性も愛せる便利な男性（つまり、ノーマル＋ホモ）のことである。『とりかへばや物語』に登場する宰相の中将がまさにその便利な男なのである。

　『とりかへばや物語』は、同じ時期に左大臣家に生まれた腹違いの男の子と女の子がいて、二人はそっくりの容貌だったが性格は正反対で男はまるで女のようであり、女は男みたいだったので性別を逆にして育ててしまうというむちゃくちゃな話である。結果として男君が尚侍（宮中でお仕えする女官）となり、姫君は女なのに中納言となって妻（四の君）を持つというとんでもないストーリーとなって進行する。そこに両刀遣いの男、宰相中将が登場する。こいつは手当たり次第に相手を求めるまさに飢えた野獣である。野獣はまず中納言の妻である四の君と関係を持つ。そこで四の君が処女であることに気づく。なぜ結婚しているのに処女なのか、ものすごく不審に思うのである。しかし、指も触れないほど大切にしてるのかと誤解するのである。そこまで大切にしてる妻を奪ったことで得意満面なのである。次に彼は本当の目標、尚侍となっている男君に接近する。しかし、男君はもちろんホモではないので男には全く興味がない。あっさり袖にされて落胆した宰相中将は、男君と瓜二つの容貌の中納言に目をつけるのである。「こちらは男だが、あれほど美しいのだからいいじゃないか。自分は美男も好きだし・・・」そして、夜這いをかけるのに成功して中納言の寝所に侵入するのである。そこで身体をすり寄せてくるのである。さわりまくりである。中納言は絶体絶命である。なんとか宰相中将のセクハラ攻撃を逃れないといけない。

　「まことは、あなもの狂ほし。殿の御前にのたまふことありつれど、いみじう暑かりつれば、うち休みしに、いそぎたちて参らねば、あやしと思すらん、まづ参りて来ん」とて起くるを、いかにおぼゆるにか、あやにくにひき別るべき心ちもせず。「あが君」と、つととらへて、わりなう乱るるを、「こはいかに、うつし心はおはせぬか」とあはめいへど、聞きも入れず。さはいへど、けけしうもてなし、すくよかなる見るめこそ男なれ、とりこめられてはせんかたなく、心弱きに、「こはいかにしつる事ぞ」と、人わろく、涙さへ落つるに、さてもめづらかにあさましくとは思ひながら、あはれにかなしきこと、方々の思ひをひとつにかきあはせつる心ちして、あやしなど思ひとがめられむも、事のよろしき時のことなりけり。

中納言は「本当に、何てきちがいじみたこと（をなさるのね）。殿が仰せごとがあったのですが、たいそう暑かったのでひと休みしていたのですが、急いでお伺いしないと、変にお思いになるでしょう。何はさて措き、お伺いしてから帰って来ましょう。」といって起きあがって逃れようとするけれど、宰相中将はどんな気分になったものやら、分別もなくしてしまって、素直にひき別れられそうな気もしない。「ねえ君」としっかりつかまえて、めちゃめちゃにみだらなふるまいに及んでくるので、「これはどうしたことだ。正気はなくされたのか」と罵ってみるが、宰相中将は耳に入れようとはしない。そうはいっても、そっけない態度をとったり、飾り気のない外見は男だが、こうしてレイプされてしまってはどうしようもなく、抵抗しきれないので「これはどうしたことか」と、体裁も悪くて涙までもこぼれるが、犯してみた宰相の方もまたそれにしても世間にも珍しく驚きあきれたことだという気はするものの、心にしみて愛しい思いも、ほかの女たちへの思いをひとつに集めたほどの気持ちがして、男のはずが女だったのは妙なことだと怪しむ気がするのは相手がまあまあの女の場合のこと、（こんないい女ならそんなこと関係ないのであった）。

とりかへばや物語の唯一の欠点と言えば、性行為の描写のあまりに簡潔であることかも知れない。まあ古典文学にフランス書院文庫のような精密で官能的な描写を期待する方が間違いなのだが。この引用した部分でも、中納言がむりやりに挿入されてしまう部分が「とりこめられてはせんかたなく」とあまりにもシンプルな書かれ方なのである。ホモの人たちがどんな愛し方をするのかわからないのでそこは想像するしかないのだが、男のつもりで後ろから犯そうとしたら女だったという状況はもっと複雑なもののような気がするのである。

今も昔もナンパ野郎というのはどうしようもない存在である。ただ自分がやりたいというその一念で行動し、それによって引き起こされる困った事態など全く考えないのである。相手が生娘であろうと人妻であろうとお構いなしだ。ここに登場するナンパ男もその一人である。

今は昔、年若くしてかたち美麗なる男ありけり。誰人と知らず。その男、いづれのところより来けるにかありけむ、二条朱雀を行くに、朱雀門の前を渡る間、年十七、八歳ばかりある女の、かたち端正にして姿美麗なる、微妙の衣を重ね着たる、大路に立てり。この男、この女を見て過ぎがたく思ひて、寄りて近付き触ればふ。門のうちに人離れたる所に女を呼び寄せて、二人ゐてよろづに語らひいふ。男、女にいはく、「さるべくてかくのごとく来たり会へり。同じ心に思ふべきなり。君わがいはむことに従へ。これねむごろに思ふことなり」と。女のいはく、「これいなぶべきことにあらず。いはむことに従ふべしといへども、われもし君のいはむことに従ひてば、命を失はむこと疑ひなきなり」と。男、なにごとをいふとも心得ずして、ただいなぶることばなりと思ひて、あながちにこの女と懐抱せむとす。女、泣く泣くいはく「君は世の中にありて家に妻子を具せるらむに、ただ行きずりのことにてこそあれ。われは君に代わりて、戯れに永く命を失はむことのかなしきなり」かくのごとくあらがふといへども、女遂に男のいふに従ひぬ。

今ではもう昔のこと、年が若くて美貌の男がいた。名はわからない。その男が、どこからやってきたのだろうか、二条朱雀のあたりを通り、朱雀門の前を歩いていると、年のほどは１７、８ほどの女で、姿かたちの整って美しく、きれいな着物を重ね着した女が、道の脇に立っている。男は、女を見てそのまま行き過ぎがたい気がして、そばに近づきその手をとった。朱雀門の中で人のいない所に女を呼び寄せて、二人腰を下ろしてあれこれと語り合う。（ナンパトーク炸裂だ）男は女に「ここで逢ったのも何かの縁だぜ。あんたも同じ気持ちなんだろ。おれの言うとおりにしろよ。これでも真剣なんだぜ」と言う。（会ったばかりでいきなり真剣というのがすなわちナンパである。）女は、「いやと言ってるんじゃないの。あなたの言うとおりに従おうとは思うのだけど、もしもあなたのお言葉に従えば私の命がなくなるのは疑いないことなのです」と答えた。男はそれがどういう意味なのかわからず、ただの断り文句だと思い、むりやりに女を抱こうとする。女は泣きながら「あなたはこの世で奥さんやお子さんもおありでしょうから、ほんの行きずりの浮気に違いありません。このような一時のお戯れに、私があなたに代わって永く命を失うのは悲しいことです」と、このように言って拒み続けたが、女はついに男に犯されてしまった。

さて、ナンパされた相手の女が「そんなことをしたら死にます」と言う。まさかそれを信じてやめる男はいないだろう。この男もやめずに強引にしてしまったのである。一夜を過ごした後、女は男に向かって、自分が死んだら法華経を書写して供養してくださいと頼む。男は「男女がＨするのは普通のことですよ。まさか死ぬなんて」と笑って取り合わないのだが、女は男の扇を取って泣きながら行ってしまった。男は翌日になってから、もしかして女の話は本当かも知れないと思って指示された場所に行くと、女の母親という老婆が泣いていて、そこには顔に扇をかぶせられた狐の死骸があった。男はそのときはじめて、自分が契りを結んだ相手がその狐だったと知るのである。その時から始まって男は七日ごとに法華経一部を供養し申し上げて女の死後を弔った。まだ四十九日に満たないうちに、男の夢には天女の姿をしたその女が現れた。「あなたが法華経を供養してくれたので、私は罪を許されました。このご恩ははかり知れません」

男の自分勝手な欲望の犠牲になって死んでしまった女の悲劇になるところを、この物語は逆に男の誠実さの話に昇華しているのである。でも、どう考えてもこいつがそんなに立派な男であるとは思えないのである。Ｈした相手が実は狐だったというのは男にとっても恥ずかしいというかきまりが悪い話であり、もしかしたら狐のたたりがあるかも知れず、そう思うと必死で写経することでなんとかその悪縁から逃れようとしただけの気がするのである。男にとってはもう死んだ女のことなど過去の話であり、さっさと次のナンパに向かって邁進するものである。つきあった女が死んで寝覚めが悪かったというただそれだけのことである。

　オシッコをした後であせってファスナーをあげて挟んでしまうとむちゃくちゃ痛い。あの激痛は男にしかわからない。同様に女性も敏感な部分を何かで挟んでしまうとむちゃくちゃ痛いと思われる。ましてやカニにはさまれれば尚更だ。以下に紹介するのは江戸笑話集の中の『きのうふはけふの物語』である。ほとんどが性に関する小話ばかりのこの本はどの作品を取り上げても変態古典にふさわしいのだが、その中でも変態度ナンバーワンの一編を紹介したい。

　ある女房、河へ洗濯せんとて行きけるが、何としてか、女のさねを大きなる蟹がはさみて、なにとしても離さず。女房迷惑して、先々家に帰り、物に寄りかかりて、色青くなりてをりけるが、おとこ、他所より帰りて、「これはあやまちをしたるか、またはくらんげか」と言えば、女房聞きて、ありのままにいふ。「それはいまだ離さぬか」とて、女房の前をひき開けて見れば、したたかなる蟹、ここをせんと挟みてをりけるが、おとこいろいろさまざまの才覚をすれども、蟹すこしもくつろげず。あたりの人の申しけるは「穴を望てつきたる、生霊にて候ほどに、祈祷をさせてみよ」と申しければ、「もっとも」とてあたりに山伏の有りけるを呼びにつかはして、女の前をひろげて祈る。

　ある女房が川で洗濯していて、どういうわけか栗ちゃんを大きなカニがはさんでしまい、なんとしても離れない。女房は困って帰宅して青ざめて寄りかかってるところに夫が帰ってきて「おまえ、日射病にでもやられたか？」と聞くと、女房はありのままに「栗ちゃん挟まれちゃった」と答えた。「そのカニはまだ離さないのか」と言って夫が前をはだけたところ、屈強なカニが必死になって挟んでいる。夫はいろいろ試してみたがカニは力をゆるめない。そばにいた人が「（カニだから）穴が好きなんだね。誰かの生霊でござんすよ。祈祷させちゃえば」と申し上げた。「もっともだ」と夫は言って、近くに住んでいた山伏を呼んでこさせて、（その山伏は）女房の股が全開オープンになったその前で祈る。

この蟹、錫杖の音に驚きて、なをなを締むる。「いかがせん」と詮議まちまちしけるが、山伏申すやう、「わたくしこれまで参り、むなしく帰り候ふまじ。所詮此の蟹を噛み割りて、捨てん」とて、大口あきて、股ぐらへ差し入れ、噛みつかんとすれば、かたかたのはさみにて、山伏の頬さきを、しかと挟みける。色々才覚すれども、両方ながら離さず。女房思ひけるは、「蟹のつらに、ししをかけて見ん」とて、したたかにしけるが、山伏の顔にかかること、ひとへに、滝にうたるるごとくなり。おとここれをみて「女どものさねのことは、挟み切り候へども、いまだよけいが有るほどに、苦しうも御座ないが、お山伏の顔にししのかかりたるが、何よりも迷惑いたいた」と言へば、山伏聞きて、「ししのかかったも、蟹の挟みたるも苦しうも御座ないが、御内儀さまの、へへの臭いで鼻がもげていぬる」といふた。

　このカニは錫杖の音に驚いてさらにハサミをしめつける。「どうしよう」と思い思いに相談したが、そこで山伏が申すことには「わたしはここまで参上したのになんの成果もあげずには帰れません。とにかくこのカニを噛み割って捨てましょう」と言って、大口を開けて股間に突入し、カニを噛もうとしたので、カニはもう一方のハサミで山伏のほっぺたをしっかりと挟んだ。いろいろと工夫してみたがどっちのハサミも離さない。女房がそこで思いついた。「カニにオシッコをかけて見ましょう」豪快にかけてみたが、山伏の顔にオシッコが掛かる様子は滝に打たれて修行してるようであった。夫はこれを見て「女の栗ちゃんのことは挟み切りましてもまだ残りがありますからたいしたことじゃありませんが、山伏様のお顔にオシッコが掛かったのは何よりもご迷惑で申し訳ないことです。」と言うと、山伏はそれを聞いて「オシッコが掛かったのもカニが挟むのも苦しくありませんが、奥様のマンコの臭さで鼻がもげちゃう」と言った。

さて、こうして口語訳を作成したのだが、恥ずかしいことに実は一カ所意味不明の所があって、そこは想像力を駆使して訳してしまったのである。もしもこの本文を読んだ方で江戸文学の専門家が居て、浅学非才の私にご教授願えるならばこの部分の解釈をぜひ教えていただきたいのである。それは

　の部分である。「いまだよけいが有るほどに」というのはどういう意味だろうか。男性の性器が切られたらもう二度と生えてこないように、女性もそんな大切なところを切られたらもうおしまいじゃないのか。とりあえず苦し紛れに「まだ残りがございますが」と訳したものの、オレは納得していないのである。何かオレには解釈不能の本当の意味がここには存在するような気がしてならないのである。知ってる人はぜひ教えて欲しいのである。

さて、アソコをカニに挟まれたというくだらない話を、まじめに淡々と描写することで面白さはますます際だっていく。自分の妻の股間を大勢の人の前にさらさないといけない夫もまたかわいそうである。他人の山伏にバッチリ見られてしまうのである。おそらく嫉妬心で夫の心は焼き尽くされそうになってるだろう。どっこいその山伏には下心など全くなく、ただ自分が呼ばれた以上はどんなことをしてもカニを退治するという意気込みに燃えてるだけのまじめ君なのである。渓流のカニであろうと股間のカニであろうとこの山伏には関係ない。その大まじめな様子と、女房のまぬけなオシッコ発言、そして山伏＝修行という連想。あまりにも内容が盛りだくさんなのである。そこまで変態技を次々と繰り出してサービスしなくても十分に面白いのである。